■術後の痛みも少なく治療費は18万円ほど
こうして中田さんは、昨年、東京都内の基幹病院でラジオ波焼灼療法による治療を受けた。
「治療は全身麻酔で行われ、1時間ほどですべての処置が終わりました。麻酔が覚めたあとは照射した部分が少しヒリヒリした程度。特に行動の制限もなく、自由に院内を歩き回れましたし、体への大きな負担も感じなかったです」
とにかく母に心配をかけたくなかった中田さんは「出張に行ってくる」と伝えて入院。「ラジオ波焼灼療法のおかげで退院後すぐに介護ができた」と胸をなで下ろす。
そんな画期的な治療法なら「手術費用も高いのでは」と気になるが、中田さんの場合は、「3割負担で18万円ほどですんだ」という。
「今も乳輪のあたりに少しヒリヒリ感はありますが、少しずつ緩和されるだろうと主治医から聞いています」
乳房を切らずにすみ、体への負担も少ない。まるで夢のような治療に思えるが、デメリットはないのだろうか。
前出の髙山医師は、「メリットの多い治療法だが、厳格な適格基準があり、早期乳がんなら誰でも受けられるわけではない」としたうえで、こう続ける。
「腫瘍の大きさは直径1.5cm以下、腋窩リンパ節転移や遠隔転移がないこと。がんの種類も、一般的な浸潤性乳管がんと非浸潤性乳管がんにのみ適用されます」(髙山医師、以下同)
がん細胞の“焼き残し”が発生する可能性も否めないという。
「外科手術なら、切り取った組織全体を病理検査して、がん細胞が残っていないか確認できます。しかしラジオ波焼灼療法の場合はがん細胞自体を焼いてしまうので、術後の病理検査ができません。そのため、がん細胞の焼き残しが発生したり、がんの全体像がつかめず、術後の治療を決定する評価が不十分になったりすることもゼロではないのです」
副作用としては、照射した患部が硬くなったり、多少の痛みを感じたりすることもある、と続ける。
「あくまでも、標準治療は外科手術による部分切除です。ラジオ波焼灼療法は、適格基準に当てはまっていた場合、選択肢のひとつとして検討するのがよいでしょう」
ラジオ波焼灼療法を選択した場合であっても、「術後に行う治療は大きく変わらない」と髙山医師。
「治療後、残った乳房に放射線治療を行います。必要な方は抗がん剤治療やホルモン療法も行います。また、焼き残しの有無を確認するために、ラジオ波焼灼療法の場合のみ、放射線治療が終了して3カ月後に再度、針生検を行います」
万が一焼き残しがあった場合は、外科手術でがん細胞を切除する。
早期乳がん患者の割合は年々増加し、2020年には57.5%に。定期健診を受け、早期発見できれば、治療の選択肢が広がるといえるだろう。
とはいえ、治療法は主治医と相談しながら、デメリットも考慮したうえ選択することが望ましい。気になる人は、日本乳癌学会のウェブサイトで対象の医療機関を確認しよう。
「私はこの治療を受けられてよかったです。多くの女性に知ってもらいたいです」(前出・中田さん)
ラジオ波焼灼療法は、中田さんのような多くの女性にとって、希望の選択肢となるかもしれない。
画像ページ >【一覧あり】“切らない乳がん治療”「ラジオ波焼灼法」の適用基準(他1枚)
