年金のことは「会社員の夫におまかせ」と考える主婦もいるだろうが、家族の状況や制度改正によってその“計算”は大きく変わる。しかも自分で申請しなければ支給されないものがあって、知らぬ間に大損していることも――。
「日本年金機構は、年金の受給対象となる人に毎年、受給に必要な手続きの通知を送りますが、おおよそ1割くらいの受給対象者からは反応がないといわれます。つまり10人に1人が手続きをしていない=年金をもらっていないことになるんです。また、年金事務所に相談に来る人も、約1割が手続きや申請に不備があるケースです」
こう話すのは、年金制度に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。年金はいま、支給開始が65歳に引き上げられているが、政府は、さらに70歳までの引き上げを検討しているという。そんな状況だからこそ、自分の認識不足で年金が減ってしまうようなミスはおかしたくない。
「65歳になる人の数は、例年180万人ほどいるので、毎年18万人ずつ、年金を『とりっぱぐれている』ことになります。ですから、私は大丈夫とか“主人の勤める会社が管理しているから安心”などと思い込まず、記入漏れや単純ミスが、あるはずだと思って、過去の記録をすべて見直すべきです」(加谷さん)
制度が難解なうえに、受給資格があっても、自分から申し出て初めて受け取れるお金も多くあるという、いわば「申請主義」の年金システム。加谷さんの言うように、最初から「漏れがあるかもしれない」と疑ってかかっても損はない。
そこで、加谷さんに加え、ファイナンシャルプランナーの中村薫さんに、陥りがちな「年金の申請漏れ」のケースについて、解説と対策アドバイスをお願いした。
【ケース1】国民年金を受給できる加入期間が10年に短縮されたと聞き、計算してみたのですが、私は丸8年にしかならず、あきらめていました(60歳・主婦)
「60歳以上65歳未満で、『10年』の年金受給資格に満たない人は、任意加入して最大で60カ月(=5年)分支払うことで、受給資格を得ることができます。60カ月では足りない場合、さらに65歳以上70歳までの60カ月(5年)分を、特例任意加入で支払うことができます。65歳以降は、受給資格の120カ月を満たした時点で終了です。120カ月分フルに支払う場合は、次の(A)と(B)のパターンがあります。(A)後納できる最大の25カ月(約2年)+任意加入60カ月(5年)=85カ月分を任意加入で支払い、残りの35カ月(約3年)分を特例任意加入で支払う(=67歳11カ月で120カ月を満たした翌月より年額19万4,825円を月割で受け取れる)、(B)60歳から任意加入で60カ月支払い、65歳以降は70歳まで特例任意加入で60カ月支払う(=70歳の誕生月翌月より年額19万4,825円を受け取れる)」(中村さん)
【ケース2】60歳で再就職し、月収28万円を超えたんですが、厚生年金が減額されてしまい……(60代・会社員)
「働きながら老齢厚生年金を受け取ると、年金と給料の合計が28万円を超える場合は、減額されてしまいます。これを『在職老齢年金』と言いますが、会社との交渉次第で減額を回避することもできます。雇用形態を業務委託に切り替えてもらうなどすれば、本人は国民年金加入者になり、厚生年金は減額されずにすむんです」(加谷さん)
【ケース3】年金は65歳にならないともらえないとばかり思い込んでいました(64歳・会社員)
「年金が支給開始となる65歳までの段階的措置として、国民年金の受給資格期間10年を満たしていて厚生年金の加入期間が1年以上ある場合、60~64歳まで『特別支給の老齢厚生年金』を受け取れます。これは手続きすれば、働いた期間と平均給与額に応じて決まる金額を受け取れますが、日本年金機構から送付される『年金の請求手続きのご案内』(「年金請求書」封入)を、『繰上げ支給の案内』と勘違いして手続きしない人がいる。年金機構から来た通知に不明点があれば、気兼ねなく問い合わせるべきです」(加谷さん)
【ケース4】主人より先に65歳を過ぎたのですが、加給年金の振替加算を申請し忘れてしまいました(66歳・主婦)
「夫が65歳になって年金を受給するようになると妻子に加算される『加給年金』は、妻が65歳に到達すると支給されなくなります。そのかわりに妻の年金に一定額が加算されることを『振替加算』と呼びます(’66年4月2日生まれ以降の人は国民年金に40年加入できるため、振替加算はなし)。しかし、妻が年上の場合は先に国民年金を受給し始めているため、夫が65歳になる前日以降に手続きしなければ『振替加算』を受け取れません。妻が66歳だとすると、年額で6万2,804円が受け取れないことになりますので、申請を忘れないように」(中村さん)
さまざまなケースで大損とならないよう、アドバイスを参考に難解な年金パズルに取り組もう。