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長年連れ添い、紆余曲折を経ながら、最後は「夫を介護する」という試練と向き合うことになった妻たち。そのとき、夫に何を思うのか。きれいごとだけでは片づけられない複雑な思いを超え、見えてきた「夫婦って何?」の答えに、耳を傾けましたーー。

 

■神足裕司さん(63・コラムニスト)/妻・明子さん(60)

 

「結婚して34年。主人が元気なころは忙しすぎて一緒に過ごせる時間はわずかでした。倒れてからの年月は一緒にいられる濃密な時間なので、苦労と思ったことはないんです」

 

そう話すのはコラムニスト神足裕司さんの妻・明子さん。裕司さんは’09年に出張先の広島から帰京の航空機内でくも膜下出血に倒れ、そのまま1年間の入院、闘病を余儀なくされた。退院時は医師ら周囲にいるすべての人から、「在宅介護は不可能」と断言されてしまう。

 

「退院時も胃瘻(いろう)などの管に体中をつながれていて、『一生寝たきりで、車いすに座ることも難しいでしょう』と宣告されてしまいました」

 

しかし退院のめどが付き、見学して回っても、「ここならば」と思える施設は皆無だった。

 

「当時、社会人の長男と高校生の長女も『お父さんはまだ54歳。施設は早いかも』と家族全員一致で、在宅介護の道を選びました」

 

要介護5の認定だったため、手厚い介護サービスは受けられたものの、経済的な不安が押し寄せた。

 

「入院・治療費の100万円単位での請求に加え、住宅ローンも残債があって、二十数年ぶりに働きに出ることにしました」

 

同時期に神足さんの帰宅に併せて1階の書斎を改装し、介護ベッドを搬入。明子さんが隣に布団を敷いて寝る日々が今日まで続いている。当時は2~3時間おきの体位変換のため、細切れの睡眠で熟睡できる夜はなかった。

 

「最近は眠れますよ。お互いにだんだん介護力が上がってきたのでしょうか。主人はマヒのない右足は踏ん張れるようになったし、なによりここまで執筆ができるようになるとは思いませんでした」

 

いまはシャワーも、明子さん1人の介助で入れるようになった。

 

「『あうんの呼吸』でしょうか。彼1人ではできないことも2人で力を合わせればできるようになる。夫婦にはそんな力がありますね」

 

この夫婦力で、現在、裕司さんはコラムニストとして奇跡的に復活。雑誌やウェブの連載を持ち、明子さんの付き添いでベトナムへの出張取材も敢行。東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太先生やメンバーと、寝たきりの人に「VR旅行」をプレゼントするための動画を撮影している。

 

「最初は彼も見る側。『疑似旅行ができた』と喜んでいたのだが、登嶋先生に『神足さんも撮ってきたらいいのでは?』と勧められて。そのとき彼の目がキラッと輝いたの」と明子さんもうれしそう。

 

「一度も喧嘩をしたことがない」といい、取材中も夫婦は何度もアイコンタクトを交わす。

 

「彼はずっと優しいです。私が『喉が渇いてる? お水飲む?』と聞いても、忙しい私を気遣っているときがあって。だから『あうん』で察して『飲んでね』と口に持っていかないとダメなんですよ」

 

「女性自身」2020年9月15日 掲載

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