「全身の倦怠感、肩こり、目の疲れ……こうした疲労の原因は、筋肉ではなく脳にあります。眼精疲労解消のためホットタオルで目を温めれば、一時的にはよくなったと感じるかもしれませんが、脳の疲れをとらない限り根本的な解決には至らないのです」
こう話すのは、東京疲労・睡眠クリニック院長で疲労回復専門医の梶本修身先生。梶本先生が疲労回復において注目するのは、脳にコントロールセンターを置く自律神経だ。
「たとえば100メートル歩くとき、呼吸が速まり心拍数も上がりますが、これは自律神経の働きによるものです。また、座って作業していたとしても、緊張と集中力を維持するのは自律神経の役割。つまり、自律神経は日常生活の中のいたるところで活発に働いており、その活動に比例して疲れがたまっていくということです」
自律神経の疲れは「脳」の疲れ。それなのに私たちが「体」の疲れと思いこむ理由は、動物が本来持つ自己防衛本能にある。
「自律神経に負担がかかりすぎると機能不全状態に陥るので、その前に活動をやめて休ませる必要があります。しかし、『自律神経が疲れた』という情報だけでは、確実に活動をやめるかわからない。そこで、わざと『体が疲れた』という情報を脳に与えて体の活動を止め、自律神経のオーバーワークを防ぐのです」
それでは、自律神経の疲れはどうすれば解消できるのだろうか。
「その唯一の方法が、睡眠です。質のいい睡眠をとると翌朝には自律神経の疲れがリセットされ、スッキリと活動を始められます。ところが、睡眠が浅かったり短かったりすると、自律神経にたまった疲れが細胞の“サビ”となって蓄積されていきます」
呼吸や歩行など、基本的な活動を行うだけで細胞は酸素を消費し、その1〜2%が活性酸素となる。この活性酸素が、細胞を“サビ”させ、組織の機能を低下させる。これが疲労の正体だ。
自律神経の疲れが解消されず、サビが蓄積し続けるとシミやシワなどの老化の原因になるだけでなく、やがては糖尿病や高血圧などの生活習慣病を招くことになる。
「どんなに寝ても疲れがとれないと感じるのは、自律神経の疲れがとれていない証拠。自律神経の機能は10代がピークといわれており、50歳を過ぎるころにはピーク時の半分以下に落ちてしまいます。機能が落ちたぶん、自律神経にかかる負担が大きくなるので、疲れが回復しにくくなるのです」