「肩こりがひどい人の多くは、右半身の筋肉は柔らかいのに、左半身の筋肉は硬いなど、筋肉の柔軟さに偏りが出ています。なぜそうなってしまうのかというと、ズバリ姿勢が悪いから。肩こりの根本原因の多くは姿勢の悪さからきているのです」
そう教えてくれたのは、整体師の中山昌大先生。10年以上、接骨院や整体院に勤務するなかで、患者個々の悩みに対応するため、独自の施術理論や技術を確立。現在はパーソナル整体師として活動する肩こり解消のエキスパートだ。
コロナ禍におけるステイホームやデスクワーク増加の影響で、座っている時間が長くなっている昨今。座った状態は腹筋から太ももにかけて伸びる腸腰筋という筋肉が縮みっぱなしになり、筋肉のバランスが悪くなる。その過程でどんどん姿勢が悪くなっていくのが最近の傾向だという。
「姿勢が崩れると、骨盤の位置も正しいポジションからずれてきます。すると、骨盤を支える『広背筋』のバランスが悪くなり、筋肉が緊張して縮みます。さらに、広背筋の上に広がる肩から背中の『僧帽筋』のバランスも悪くなり、肩周辺の筋肉が緊張して縮み、肩こりを発症するのです。このため、まずは姿勢を正すことが大切です」(中山先生・以下同)
肩こりがあるからと、肩周辺を集中的にマッサージする人は多い。しかし、それによって一時的には楽になっても、すぐにまたぶり返すのが肩こりの厄介なところだ。
肩こりを根本的に改善したいなら、肩の筋肉の緊張が緩むよう、周辺の筋肉をほぐす必要がある。全身の筋肉はつながっていて、連動して影響を与え合っているためだ。肩こりを解消するには、わきを伸ばすことで、広背筋をストレッチすることが効果的だという。
「女性は筋肉量が少ない分、一度筋肉が硬くなると、ほぐれにくいのです。起床後や就寝前などストレッチを毎日の習慣にして、丁寧に緩めてあげることが大切です」
中山先生が推奨する肩こり解消のストレッチは次の3つ。
■わき伸ばし
まずは「わき」を伸ばして広背筋をストレッチする。
(1)広背筋が硬くなると、姿勢が悪くなる。広背筋の始まりから終わりまでを伸ばす。
(2)背すじを伸ばして、イスに座る。片方の手首をつかみ、腕を斜め前にグーッと伸ばす。息をはきながら、10秒伸ばして緩める。これを左右5セット行う。
(3)体を伸ばす方向と逆向きに腰を回すようにひねると、ストレッチ効果がアップ。
【NG】ひじを曲げたり、体を真横に倒してしまうと、広背筋へのストレッチ効果が得られない。
■太もも裏伸ばし
続いて「太ももの裏」をストレッチ。この周辺にある筋肉を伸ばすことが、骨盤を本来のポジションに戻すことに効果があるという。
(1)姿勢の乱れを防ぐには、骨盤が正しい位置にあることが大切。太もも裏のハムストリングや内転筋を伸ばし、骨盤のゆがみを正す。
(2)イスに浅く座り、足を伸ばしてつま先を立てる。その際は骨盤を立てるように座り、背すじは伸ばして胸を張る。息をはきながら、20秒かけて前傾したら緩める。これを5セット行う。
【+α】足を開いて同じように行うと、ストレッチ効果がアップ。つま先を外側に向けると太ももの外側、まっすぐにすると太ももの裏側、内側に向けると太ももの内側が伸びる。
■肩・首伸ばし
そして肩甲骨を寄せることで、肩と首をストレッチ。このときのどの筋肉が下方に引っ張られる。
(1)首の筋肉が硬くなると、のど周辺の筋肉が下に引っ張られ、肩こりの一因に。僧帽筋とのど周辺を同時に伸ばす。
(2)背中側で手を組み、肩甲骨を寄せるようにグーッと肩を開く。この状態で、口を閉じて軽く上を向くと、肩とのど周辺が伸びる。息をはきながら、10秒伸ばしたら緩める。これを5セット行う。
【NG】口が開いていると、のどのストレッチ効果が半減してしまう。
こうして肩周辺の筋肉のストレッチをすることで、肩こり改善の効果が得られるのだ。3つのストレッチを行っても要する時間は5分程度。毎日行って筋肉を緩めよう。
コロナ禍で、運動量が激減したことも問題だと中山先生は指摘する。ただ、わざわざジョギングやジム通いなどをしなくても、日常のなかで意識的に運動量を増やすだけでいいそうだ。
「買い物に出かけ、重い荷物を持って歩いて帰宅するだけでも運動になります。掃除や洗濯などで、体のさまざまな筋肉を意識的に動かすように心がけましょう。家事も立派な運動です」
座っている時間が長いことで、下半身がむくんでいる人も増えているそう。人間の体は筋肉のじつに7割が下半身にある。下半身に疲労がたまると、姿勢も崩れやすくなってしまう。これが肩や首の不調にもつながってしまうのだ。
「人間の体は8割が水分で構成されており、水分を取らないと、水量が少ない川のように、ゴミがどんどんたまった状態(=むくみ)になります。ですから水分補給が大切なのですが、コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどのカフェイン入りの飲料は老廃物を運ぶ水分にはなりません。カフェインが入っていない飲み物を毎日約1.5リットル飲むように心がけましょう」
肩の不調改善には、肩以外の筋肉の緊張をほぐすことが肝心。このことを念頭に、やっかいな肩こりとおさらばしよう!