日本中であらゆる災害が起こる時代。その中でもっとも弱いのは、ズバリ高齢者。近年の災害で、命を落とした人の多くは60歳以上だという事実がある。たとえ災害で死ぬ人の総数が少なくても、その中の1人に自分の家族が当てはまってしまったら――。“いざという時”が来る前に、家族全員が生き延びる備えをしよう。
「防災グッズや保険は災害から生き残れたときに必要なもの。まずはとにかく、どんな災害があっても家族全員で生き延びることです。そのため『避ける』『耐える』『逃げる』『しのぐ』という4つのポイントを、順に見直すことが大切です」
こう話すのは備え・防災アドバイザーの高荷智也さん。
「避ける」は、そもそも水害や土砂災害、津波が起こりにくい場所に生活環境を置くこと。「耐える」は自宅の耐震強化、家具の固定など災害に遭っても生活環境が壊れないようにする備え。「逃げる」は災害が起きたときに適切なタイミングで安全な場所に避難する準備。「しのぐ」は、ライフラインが停止している間に生き延びるための食料、飲料、生活用品などの備えのことだ。
3つ目の「逃げる」においても、高齢者とその家族を守るためには、事前の備えが不可欠だという。まずは自宅周辺の災害リスクを把握し「いつ、どこへ逃げるのか」“わが家の避難方針”を決めよう。高荷さんが解説する。
■逃げる―高齢者のいる家庭は避難所へ行かなくていい場合も
〈水害〉
「災害発生時に、命の分かれ目になるのが逃げるタイミングです。まず、大雨や台風は、気象情報をチェックしていれば災害規模がある程度事前にわかります。大雨と暴風が吹き荒れるなかの避難は困難です。浸水リスクの高い地域に住んでいて、自宅周辺が水に沈む、土砂災害の危険がある場合は、高齢者を連れてタクシーや車で被害が及ばない親戚宅、ホテルに身を寄せること。自治体から発令される防災気象情報で警戒レベル3の“高齢者等避難”のタイミングで避難に踏み切ってください」
〈地震・津波〉
「地震の揺れを避けることはできません。まずは身の安全を確保しましょう。耐震性の高い家に住んでいて、建物に致命的な外傷がない場合は、無理に避難所等へ逃げる必要はありません。
注意すべきは津波、土砂災害、地震火災といった二次災害。特に津波の浸水想定区域に木造住宅がある場合は、建物ごと流される可能性が。1秒でも早く、安全な場所に走って避難してください。頑丈な建物の場合でも、部屋の高さを上回る津波が予測されたら、建物内で安全な上層階に移動する垂直避難も有効です」
■歩行が難しい高齢者は自治体の名簿に登録を
さらに要介護者や寝たきりの人がいる場合について、介護のプロであるごぼう先生が語る。
「自宅に車いす、ストレッチャー、介護用おんぶヒモなどを備えておくことも重要です。それに加えて、ご近所付き合いが大事になってきます。近所の人にはふだんから家に要介護者がいることを認識してもらい、いざとなったら助けを求めて一緒に避難しましょう。また避難が困難な人をサポートする、各自治体の『避難行動要支援者名簿』に登録を。災害時に消防団や民生委員などが優先的に安否確認や避難支援などを行います」
避難所への道のりを平時にチェックしておくことも忘れずに。避難方針が決まったら、実際に逃げる際の防災アイテムの準備にとりかかる。高荷さんが解説する。
「防災グッズは、必ず、目的別に、2つに分けて保管してください。1つ目の『非常用持ち出しセット』は、命の危機が迫るなか“素早く安全に”逃げるのに必要なものを入れます。背負ったまま走れるくらいの重さにしておくことがポイント。重すぎるようなら優先度の低いものを外しましょう。2つ目は、避難生活を続けるうえで必要な備蓄品である『避難生活セット』です。こちらには避難先で生活するために必要になる防災グッズや生活用品を入れておきましょう」
また、高齢者のいる家庭は「災害後は、すぐ避難所へ」という考えにこだわらないことも大切だ。
「避難所は『逃げる』選択肢のひとつにすぎません。あくまでも自宅での生活が困難になった人が、一次的に身を寄せる場所。食料や水はあるものの、布団すら配布されず、床に寝なければならない……という場合も。感染症のリスクもありますから、高齢者がいる場合は、慣れた環境で生活する『在宅避難』ができるに越したことはありません」(高荷さん)
