従来の形にとらわれずに、自宅で故人と“暮らす”……。そんな新しい弔いの様式に注目が集まっている。
そのトレンドを作ったのが、滋賀県にある老舗石材店「浦部石材工業」の浦部弘紀社長(50)が開発した”ブックサイズ”の小型のお墓「たくぼ(宅墓)」だ。
「6〜7年ぐらい前、無縁墓が大きな社会問題になっていて、『墓じまい』をされる人も増えていました。当時、すでにバブルのころと比べて10分の1ぐらいしかお墓が売れない状況で、危機感を持っていました。それで石材店として何ができるかを苦悩するなか、考案したのが宅墓でした」
浦部社長は、故人の遺骨や遺灰を身近に置いて供養する手元供養をヒントに、室内に置ける小さなお墓を思いついたという。
開発段階では、室内インテリアとして支障がないデザインを試行錯誤しながら、1人用のコンパクトサイズのお墓を完成させた。そして’15年に「たくぼ(宅墓)」の商標登録、デザインの意匠登録を取って販売をスタートした。
販売開始当初の注文件数は月に1〜2基程度だったというが、それでも地道に販売を続けていたところ、地元メディアなどで取り上げられるようになった。すると、“こういうものが欲しかった!”と、全国から注文が殺到。今では月平均で40基の注文が入るという人気ぶりに。
浦部社長は、家族以外の人が購入するケースもあったと振り返る。
「あるお店の常連さんが亡くなり、その方はほとんど身寄りがなかったそうです。それでお店のオーナーとほかの常連さんたちが、みんなで偲んであげようと、店内に置くことを決めて、購入されました」
宅墓は1人用と夫婦で入れる2人用タイプで全4種類あり、使用される天然石の色は5色。価格は1人用が7万円。2人用は14万円。骨壺は別売りで1個1,000円だという(いずれも税込み)。
新たな墓を購入する際、永代使用料(土地代)や墓石代など、一般的に150万〜300万円の費用がかかると言われているだけに、値段的にはかなり魅力的に思える。
さらに宅墓は、墓地と違って場所を選ばないので、引っ越しする際でも、簡単に持ち運びができるというメリットもある。
ちなみに、墓地埋葬法では、遺骨や遺灰を自宅の庭に埋葬することは禁じられているが、自宅など室内で保管したりすることは問題がないという。
お墓の問題に詳しいシニア生活文化研究所・小谷みどりさんはこう語る。
「これまで、家の中で故人を偲ぶ役割を担っていたのが仏壇でした。ところが、今はマンションで暮らす人たちも増え、仏間や和室がない間取りも当たり前の時代。今後、宅墓が仏壇の代わりになってくるかもしれません」
仏壇と違って、宅墓には遺骨を納めることができる。別途、墓を必要としないのだ。
「遺骨を家の中に置くことで、故人をより身近に感じることができ、見守ってくれているという気持ちは強くなるでしょう」
だが、その一方で、こんな懸念もあるという。
「たとえば、自宅に自分の親の宅墓を置いておくのはいいのですが、管理していた自分が亡くなった後はどうするのか。残された家族は、ずっと継承して管理するのか。家族のなかには納骨堂などに納めたいと言う人も出てくるかもしれません。将来を見据えて、家族内でどう管理していくかを事前に決めてから、選択すべきでしょう」
「女性自身」2021年4月27日号 掲載