■法的な手続きを踏まないと相続放棄できない
【ケース2】音信不通の子がいる
《父が急死し、借金(負債)が多かったため、私と母と妹は相続放棄をしようと思います。ただ、父には先妻との間に長男がいます。相続放棄には長男の同意もいりますか? 私たちにはその長男の居場所もわかりません》(大阪府・主婦・60代)
「相続放棄は相続人それぞれが個人で行う手続きなので、所在不明の実子がいても、問題ありません。相続放棄していない長男には、自治体から不動産の固定資産税の請求などの通知がくることがあります。そのときに、長男が個人で放棄をするか否か判断する必要があります」 それでは、法的な相続放棄の手続きはどのようなものか。
「弁護士または司法書士の名の下に、相続の開始があったときから所定の申述書に記載し、提出することで完了します」
申述書は、東京家庭裁判所のHPよりダウンロードできる。〈1〉相続の開始があったときから3カ月以内に、〈2〉被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、〈3〉相続申述書・申述人(相続人)の戸籍謄本等・収入印紙800円などを同封し提出することで、相続放棄できる。
【ケース3】親の預貯金を使ってしまった
《父が他界し、住宅ローンや事業資金の借り入れなどもあるようなので相続放棄したいと思います。しかし、父の死後、口座の預貯金を下ろして自分の生活費などに用立ててしまいました。相続放棄はできるのでしょうか?》(熊本県・主婦・50代)
「原則、被相続人の死後、相続財産を使ってしまったのであれば、『相続した』ことになるため、相続放棄はできません」
葬式費用は問題ない場合があるが、生活費やカード払いで、誤って使ってしまわないように要注意だ。
【ケース4】放棄後も空き家の管理義務が
《母が他界したときに田舎の古家と土地しか残らなかったため、きょうだい全員、相続放棄をしました。ですが、自治体でももらってくれないほどの過疎地でした。本当に放棄できたのでしょうか?》(石川県・主婦・70代)
「固定資産税などを請求されることはありませんが、管理義務は残ってしまうことはあります。そうしたときは、相続人全員で話し合い、管理することになります」
古くなった空き家が倒壊して道に瓦が落ちたり、周囲の家とトラブルが起きた場合などは賠償等の責任を負わなくてはならない可能性がある。
【ケース5】後から財産が見つかった
《父の他界後、家も賃貸で、預貯金も見当たらなかったため私は相続放棄の手続きをしました。しかし後になって、父が新宿に広めのワンルームマンションを所有していたことが判明。ほかのきょうだいはこれを知っていたのか否かわかりませんが、相続放棄はしていません。相続放棄の手続きを無効にすることはできますか?》(東京都・会社員・40代)
「一度、相続放棄の手続きをしてしまったら、撤回はできません。マンションは相続放棄していないきょうだいたちで相続することになります。このようなケースもあるため、熟考のうえで決めなければなりません。迷った場合は、専門家に相談することをおすすめします」
塩崎さんは落とし穴を回避するために、最後にこうアドバイスをしてくれた。
「被相続人から、財産や負債を漏れなく聞き取っておくことが大事です。相続放棄の期限は、被相続人の死後3カ月と短いので、必要な書類、自分自身の戸籍をあらかじめ取り寄せておくなど、準備しておくといいでしょう」
あとで「しまった」と後悔しない、ベストな行動がとれるように備えておこう。