厚生労働省と日本歯科医師会が’89年に始めた「8020運動」。80歳になっても自分の歯を20本以上保つための啓発運動で、実際に死亡リスク低下につながることも確認されている。国内の高齢者約5.2万人を対象としたJAGESの大規模研究によれば、自分の歯が20本未満のグループは、20本以上残っている場合と比べて死亡リスクが約1.3~1.6倍に高まるというデータが。
「かむ」という動作は脳への強力な刺激になるため、歯を失うと認知症の発症リスクが高まることもわかっている。このように、1本でも多く自分の歯を残していくことはとても大切なのだ。
「近年は歯周病や虫歯を予防・コントロールできる人が増え、治療技術も向上しています。しかしいっぽうで、“歯根破折”により歯を失う人も増えているのです」
そう話すのは、テクノポートデンタルクリニック院長の倉治ななえ先生だ。
日本の成人が歯を失う主な原因は「歯周病」と「虫歯」。これらは当然の原因に思えるが、次に来るのが“破折”だ。
「破折の中でも、もっとも怖いのが“歯根破折”です。虫歯予防の習慣は広く普及し、歯周病予防のために歯科にかかることも一般的になりましたが、歯根破折はまだあまり認知されていないのが現状です」(倉治先生、以下同)
歯根破折とはいったい、どのような状態を指すのか。
「歯の根っこ部分にひびが入って割れた状態です。歯茎の中で割れるため目視できず、確認するためには、マイクロスコープという拡大鏡を使用します。歯根破折の進行が認められると、その大半が抜歯になります」
もちろん、進行具合によっては治療によって歯を残せる場合もある。しかし、患者の大半は遅かれ早かれ歯を失うことに――。
この歯根破折は、神経を抜いた歯に多く起こる特徴があるという。
「神経を抜いた歯は、長い時間をかけて枯れた枝のようになってしまい、割れやすい状態になります」
しかし、歯の神経を抜いたことがないからと油断するのは禁物だ。歯根破折は、生活習慣とも密接に関係している。今回は破折を招く主な悪習慣を倉治先生に解説してもらった。もっとも多い原因は、硬いものを食べること。
「歯根破折の疑いがある患者さんに対して、『最近ナッツを食べましたか』と質問すると、『お医者さんがテレビで健康のためにナッツを食べるといいと言っていたので、食べるようにしています』といった答えが返ってくることがよくあります。ほかにも硬いせんべいやスルメなど、『歯ごたえがあるものが昔から好きで』という患者さんも多いです」
ただし、歯茎の中で進行するため、初期段階では症状が少なく気づきにくいのが厄介だ。
