薬のリスクを知ろう 画像を見る

腸内環境を整えようとヨーグルトや納豆をせっせと食べていても、ふだん飲んでいる薬の影響で、腸内細菌のバランスが崩れているかもしれない。

 

「人の腸内細菌のバランスは、3歳ぐらいで決定されますが、食事やたばこ、アルコール、病気などさまざまな環境因子により腸内細菌の多様性は失われ、バランスが崩れてしまうのです。腸内環境に影響を与える要因を詳しく調べたところ、服用している薬が、食や生活習慣などよりも3倍以上も影響が強いことがわかりました」

 

そう語るのは東京医科大学消化器内視鏡学の永田尚義准教授。

 

腸内には100兆個の細菌が生息。数千種類ともいわれる多彩な性質の細菌が寄り集まって腸内細菌叢という生態系を作っている。

 

また、腸内にどんな細菌が、どのようなバランスでいるかは人それぞれ異なっている。

 

■いろいろな菌が生きている腸が理想

 

永田先生は、4198人(平均年齢66歳)の腸内環境と病気や食、生活習慣などに加えて服用薬との関係を調べた大規模データベースを構築し、腸内細菌のバランスが病気に影響していると指摘した。

 

いろんな菌がバランスよく生きている腸内環境が理想だが、それが崩れると、がん、生活習慣病、精神疾患など病気のリスクが高まると考えられている。

 

「腸内細菌の大事な機能は『作る』です。腸まで運ばれた炭水化物やタンパク質を食べ、ビタミンを合成したり、エネルギー代謝をコントロールする短鎖脂肪酸を作ったりします。幸せホルモンといわれる神経伝達物質のセロトニンや心を落ち着かせる働きがあるGABAも、腸内細菌が作っていることもわかっています。また腸内細菌には『守る』という大切な機能も。外から入ってきた病原体に備えるため腸には免疫細胞や抗体が集まっていますが、特定の腸内細菌が作る短鎖脂肪酸や、細菌そのものが免疫の働きを維持しています。腸内細菌がいないと人は生きていけないのです」(永田先生・以下同)

 

759種類の薬剤を調べた今回の研究では、日本人の腸内環境のバランスを大きく崩す薬と、まったく影響を与えない薬があることも判明。種類別に見ると消化器疾患治療薬、糖尿病治療薬、抗菌薬の順で影響が強かったという。

 

どんな仕組みで、薬が腸内環境に悪影響を及ぼすのだろうか?

 

「過剰に出ている胃酸を抑える薬(PPI=プロトンポンプ阻害剤など)は、胃痛や胸やけなどの症状を改善する効果がある薬ですが、強い胃酸の力によってブロックされている口腔内細菌が、その分泌を抑えたことで腸まで流れ込んでしまうのです。本来、腸には存在しない口腔内細菌が増殖し腸内環境のバランスが崩れます」

 

また、腸内で水分を吸収して便を軟らかくして排便を促す「浸透圧性下剤」にも腸内細菌への影響が懸念されている。比較的、副作用が少ない便秘薬だが、水分と一緒に腸内細菌を洗い流したり、ミネラルバランスを悪化させたりすることが影響を与えると考えられているのだ。

 

「そのほかに、糖尿病治療薬にも注意が必要です。なかでも、小腸の粘膜から糖の吸収を阻害するαグルコシダーゼ阻害剤は、食後血糖値を抑制する有効な薬ですが、糖はそのまま大腸に行ってしまいます。おもに大腸に生息している特定の細菌にとって、糖は大好物。糖を代謝分解する菌が増大し、全体のバランスを乱してしまいます」

 

細菌を死滅させたり、その増殖を抑えたりする抗菌薬は、病原性細菌だけでなく無関係の人にとって必要な腸内細菌を死滅させてしまう可能性が高い。

 

「とはいえ、抗菌薬は糖尿病治療薬や消化器疾患の薬よりも影響が弱かったのですが、それは使用期間が3日から1週間程度と短いことが要因かもしれません」

 

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