眠れないのは交感神経の緊張が続いているということだ。深~い呼吸によって、緊張を和らげ、自然に眠りに入れるという。習慣にすれば「心を緩める」ことができるようにも――。
「今の時代、実に多くの人が睡眠の問題で悩んでいます。うつ病の患者さんもそうですし、女性は更年期になるとエストロゲンの量が急激に減り、自律神経のバランスが乱れ、そこからうつ状態になって、睡眠に支障をきたす人もいます。高齢の方は深く眠れずに、何度も目が覚めたり、朝早く目が覚めてしまうという方が多いです。エイジングの影響もありますが、眠れないということは交感神経の緊張状態が長時間にわたって続いているということです。深い呼吸は緊張状態を和らげてくれます」
こう話すのは、心療内科医の板村論子さんだ。板村さんは、誰でも簡単に、しかも1分程度でできる「4-7-8呼吸法」を提唱している。
「『4-7-8』とは、4カウントかけて息を吸って、7カウントの間吸った息を止めて、8カウントかけてゆっくりと息を吐く呼吸法です。この数字は『秒』ではなく『カウント』ですので、自分のやりやすい速さでカウントしてください。ただ、吸うのが『1』に対して吐くのが『2』の比率は変わりません」(板村さん・以下同)
板村さんは、2014年から2年間、アリゾナ大学での統合医療フェローシップ・プログラムで、この呼吸法を生み出したハーバード大学出身のアメリカ人医師アンドルー・ワイル氏からじかにこの呼吸法を学んだ。その後、心療内科の外来でこの呼吸法を実際に取り入れている。
「現代人はストレスの多い生活を送っているため、過緊張状態が長く、呼吸が浅くなっています。そのため、体内が慢性的な酸素不足になっており、うつ病などの精神疾患や、糖尿病やがんといったさまざまな病気につながる慢性炎症の状態が続いているのです」
過緊張状態とは、交感神経が優位の状態が続くことだ。これにより、全身の血管が収縮して筋肉が硬くなる、血圧が上がる、肩こりが頭痛などが起こりやすくなるといった症状が現れる。肥満や不整脈も過緊張が一因だと考えられている。
体の緊張は心の緊張にもつながっているのだとか。
「体が硬くなると、心も硬くなりがちで、凝り固まった考え方をしたり、頑固になったり、怒りっぽくなったりします」
本来なら、睡眠が緊張を和らげ、傷ついた細胞を回復してくれるのだが、よい睡眠がとれないと、修復機能がうまく働かなくなる。
そこで実践してほしいのが「4-7-8呼吸法」なのだ。やり方は次のとおり。始める前に口を軽く閉じて、鼻から息を吐き切る。
(1)口を閉じて鼻から息を吸う。頭の中で1から4まで数え、胸いっぱいに酸素を取り込むように深く静かに息を吸う。
(2)吸った息を肺の中で保持しながら、頭の中で1から7まで数える。このとき、息を止めるのではなく、酸素が全身に行き渡るイメージを持つ。
(3)頭の中で1から8まで数えながら、口からゆっくりフーっと息を吐く。鼻から吐いてもOK。
「実際にやってみるとわかると思いますが、『4-7-8呼吸法』をすると自然に体が緩まってきます。不眠で悩まされている人が布団に入ってこの呼吸をすると、自然な眠りに入っていきます。定期的に続けていると、過緊張状態が起きにくい体に変わっていきます。さらに、『4-7-8呼吸法』が習慣になると、心を緩めることができるようになるのです」
実際、先生の患者さんで、不眠と不安を抱えている70代の女性患者さんに「4-7-8呼吸法」を定期的にやってもらうようにしたら、睡眠薬なしで眠れるようになったという。こうした実例は数多くあるそうだ。この呼吸法はいつ実践しても構わない。
「寝る前に行うと自然に眠るようになり、朝起きたときにはよく寝た感じがし、その日の行動がスムーズにできるようになります」
お金もかからず、どこででも簡単にできる健康法だ。習慣にして、よい睡眠と健康を維持しよう。