■貯蓄ゼロからの資産作りポイントはお金の三段活用
具体的に、貯蓄ゼロからの資産形成法を解説してもらおう。
「ポイントは、お金の三段活用を意識することです。
65歳まではお金を積み立てる『積立期』、75歳までは運用でお金を増やす『運用期』、75歳からはお金の取り崩しを開始する『取り崩し期』にわけてプランを立てていくことです。
東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情」(令和4年)によると、中小企業の退職金の中央値は約1,092万円。この退職金を無計画に散財せずに、老後資金の準備として活用します」
運用法(1)では、退職金をNISAで運用するパターンだ。
「退職金を一括で投資するのはリスクがあるため、毎月20万円ずつNISAで積み立てします。5年間継続すれば投資元本は1,200万円に。積み立てを終了した時点で運用利回り5%で仮定すると資産は1,360万円に。
そのまま10年間運用のみを継続することで、75歳時点での資産は2,000万円以上に。これを運用しながら少しずつ取り崩すと110歳まで資金が枯渇することがありません」
運用法(2)は、65歳まで働いて生活費を確保しながら、その間、退職金を運用し、さらに公的年金の受給繰り下げにより、不足しがちな資金を年金でカバーする方法だ。
「60歳からの5年間は節税もかねてiDeCoでの会社員の掛け金上限である月23,000円を積み立てます。また退職金のうち500万円をNISAで月20万円ずつ積立投資を行います。どちらも5%の運用が可能ならば、75歳時にiDeCoで254万円、NISAで約1,000万円資産を増やすことができます。
また70歳まで就労が可能ならば、公的年金の受給開始時期を70歳まで繰り下げることで、65歳時点の年金額より42%増額。90歳までの受給額は約600万円も多くなります」
就労収入と退職金の積み立てと運用に加え、公的年金の繰り下げを実行することで、1,800万円ほどのメリットの享受が可能になる。
運用法(3)は、70歳までの就労を見込みながら、積み立てを行っていくケースだ。
65?69歳の人の平均賃金は正社員で約31万円(前出『賃金構造基本統計調査』)を参考に、できるだけ働く期間を長くしたケースで試算。
「まず働いて得た収入から、半年から1年分の生活費を準備。病気やけがで働けなくなった場合に備える貯金(生活防衛資金)を確保します。同時に65歳までiDeCoで月23,000円を積み立て、75歳まで運用を続けます。
さらにNISAには退職金を使って60歳時に、まず240万円を一括投資、それに加えて同時に月20,000円を70歳まで10年間積み立てていくことで、iDeCoと合わせて約1,000万円の資金ができます」
貯金ゼロの60歳からスタートしても75歳で約1,000万円に。
あくまでここで紹介した運用法は仮定であり、投資するときは自己判断で行うことだ。
最後に山中さんがこう語る。
「60歳からの資産作りは無理だと諦めている人が少なくありません。しかし『積立・運用・取り崩し』の三段活用を実行する期間を設けることで、資産形成は十分可能です。
まずは75歳の自分をイメージすること。その姿が幸せなものであるためには、何をするべきか見えてきます。iDeCoやNISAを理解したうえで、行動を起こしてほしいです」
貯金が少ないと嘆く前に、前向きに資産形成に動きだそう!
